「頼む。どうしても、どうしても君を失いたくないんだ」
 声が、握る手が、みっともなく震えてしまっていた。少しでも瞬きをすれば涙が零れ落ちていきそうで、それは格好悪いからと必死に虚勢を張って、彼女の碧い瞳を見つめ続けていた。
「……そうすれば、私は助かるかもしれない?」
「可能性が高くなる。今よりも、もっと、ずっと。もちろん、百パーセントとは言えないけれど、それでも……今よりは確実に高くなる」
 だから、そのために。君の時間を止める事を許してほしい。そんな我儘を彼女へと告げた数日後。彼女は、とある約束を交わす事を条件に……微笑んで了承してくれた。

  ***

 カイトス=グリーゼ
 ミラ=ケイティ
 この二人は、同じ日の、同じ時間に、同じ町で生まれた。誕生の瞬間から運命的だった二人が互いを愛し、これからを共にと願うようになったのも、必然という名の運命だったのかもしれない。
「ミラ、迎えに来たよ」
「カイトス!」
 志の違いから二人は違う学校を選んだけれども、放課後はいつもカイトスがミラを迎えに来た。ミラはいつだってそれを喜んで、門の前で待つカイトスを見つける度に、宝石のようだと称された碧い瞳をきらきらと瞬かせた。
「ミラ、ミラ、僕のアンドロメダ」
「カイトス、カイトス、私のペルセウス」
 周りが呆れるのも構わずに、二人は、小さい頃に読んだお気に入りの神話になぞらえて互いを呼んでいた。互いが、互いを心から愛していて、心から永遠の愛と幸福を願っていた。
「カイトス、どうしよう。私……ケートスにかかっちゃったみたい」
 ミラがカイトスにそう告げたその日から。カイトスは、彼女のペルセウスは、奇跡のような可能性を信じて途方もない戦いに身を投じる事になった。