機械仕掛けの星空

 むかーしむかしの、そのまた昔。あるところに、機械いじりが大好きな少年がいました。
「すごいや! 誰もネジを回してないのに、くるくるくるくる回り続けてる!」
「中はどうなってるんだろう? ああ、見てみたい!」
 気になる機械やからくりを見つける度、少年はお気に入りのペンチとスパナでバラバラにして中を見ていました。そして、見終わった後はすっかり綺麗に元通りに直していました。
「おやおや、お前はまた機械を見ていたのかい?」
「おばあちゃん!」
 大好きな祖母を見つけた少年は、一目散におばあさんの元へと駆け寄ります。おばあさんは、少年にペンチとスパナをくれた人でした。
「機械は面白いんだよ。誰もいなくてもくるくる回ったり、きらきら光ったりするんだ!」
「そうかい、そうかい。お前さんが嬉しそうで、ばあちゃんも嬉しいよ」
「おばあちゃんが嬉しいと、僕も嬉しい!」
「嬉しい事を言ってくれるねぇ。ほら、もうそろそろ夕ご飯だから、機械たちには一旦お家に帰ってもらおうか」
「うん!」
 少年は、自分と同じように機械を大事にしてくれるおばあさんが大好きでした。

  ***

「おばあちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
 少年がどんどん機械に詳しくなって、いろんな人から頼りにされるようになってきたのと同じくらいの時期に。おばあさんは、体調を崩しがちになりました。
「おばあちゃん。今度は、洗濯物を干すのを手伝ってくれるロボットを作ってみたんだよ」
「ありがとう。この前のお皿を洗ってくれる子も、とても頼りになっているよ」
 少年によって作られたおばあさんのための機械たちは、みんな立派に役目を果たしていました。お皿を洗うロボットも、洗濯物を干すロボットも、お風呂を沸かすロボットも、みんなみんなおばあさんに良くなってほしい一心で一生懸命働いていました。
「おばあちゃん。あのね、この子は、おばあちゃんが歩くのを助けてくれるロボットなんだ」
「今作ってる子はね、おばあちゃんがベッドから起きるのを助けてくれるロボットなんだよ」
 だんだん、おばあさんはベッドで眠って過ごす事が多くなりました。少年が話しかけると起きてお話をしてくれますが、少年が宿題したりロボットを作ったり、別の家のロボットを治療している時は、ずっと眠ったままでした。
「おばあちゃん、おばあちゃん。どうかどうか元気になって」
 眠るおばあさんの手を握りながら、少年は祈るような気持ちで呟きました。

  ***

「結婚式の日の夜に、おじいさんと一緒に夜空を眺めたんだよ」
「その時の星空はね、そりゃあもう綺麗で綺麗で。今でも、ずっと覚えているよ」
 少年が話しかけても、半分くらいは眠ったままになっていたおばあさんが、不意にそんな事を話し始めました。そして、そう話すおばあさんの顔はとても幸せそうだったので、少年の心も少しだけ弾みました。
『もう一度、大好きな星空を見る事が出来たのならば』
『おばあちゃんは元気になってくれるかもしれない』
 そう考えた少年は、大好きな機械で大好きなおばあさんのために星空を作る事にしました。
「まずは、きらきら光るパーツを作らないと」
「次に、パーツを固定する板を準備しないと」
 一生懸命材料を集めて、お手伝いのロボットと一緒にカンカンと音を鳴らしながら作ります。あるロボットには色塗りをしてもらい、あるロボットにはパーツ付けを手伝ってもらいました。
「空の星たちは、みんな個性的だ。色も、形も、ひとつとして同じものがない」
「あの空を切り取ったような、そんな星空を。僕が、再現してみせるんだ」

  ***

「おばあちゃん、おばあちゃん」
「おや、どうしたんだい?」
「あのね、おばあちゃんに見せたいものがあるんだ」
「おやおや、何だろうねぇ」
 少年はそう告げると、部屋の外で待っていたロボットたちに合図をしました。ぞろぞろと入ってきたロボットたちの手には、大きなネイビーの板が抱えられています。
「あれまぁ、ずいぶんと大きな板だね」
「ただの板じゃないんだよ」
 そう言って、少年はぱちんと指を鳴らしました。それを合図に、ロボットたちはネイビーの板でおばあさんと少年を覆うように包みます。
「おやおやおや、あっという間に包まれちまった」
「ここからが本番だよ……それっ!」
 少年の掛け声を聞いたロボットが、パチッと板の外のスイッチを押しました。その瞬間、色とりどりの光があふれ出し、きらきらとパーツたちがランダムに光り始めます。うつくしく瞬く金属の星々を見たおばあさんは、驚きであんぐりと口をあけました。
「あぁ、あぁ……まるで、あの時みたいだ」
「なんて……きれい」
 おばあさんの瞳から、ほろほろと透明な涙が零れ落ちていきました。

 そして、その様子をずっと見守っていた少年は、とても誇らしげな笑顔を浮かべていました。