【焼き鳥が登場する物語】当たり前だと思ったものは地域限定(多分)だったオチ ※エッセイ

 そう……それは、就職活動の一環で関西まで職場見学に行っていた日の事だった。
「これで見学会は終了! 色々な形態の店舗を回ったけど、どうだったかな?」
 案内をしてくれたリクルーターの方や一緒に回った他の学生さん達が、各々感想を言う。それに倣うように、興味深かった、勉強になった……と、そう思った事自体は間違いないがやっぱり自分は第一希望の形態の店舗一択だなという決意が固まったわい、という本音をお腹に抱えながら、若かりし学生時代の吉華も感想をつらつらと述べた。
「それじゃあ今からはお疲れ様会~! 駅前の居酒屋に飲みに行こう!」
 そんな誘いに、せっかくだからと乗ることにした。居酒屋なら小学生の頃から家族に連れられて行っていたから馴染みがあるし、好きなやきとりが沢山あるし。こういう時しかお酒飲まないからより一層、居酒屋とやきとりを楽しもう。やっぱり始めは豚バラだなぁ、カリッと焼かれてじゅわっと溢れる肉汁と程よく効いた塩コショウがたまらない! ……そんな風に呑気に考えて、皆についていきながら居酒屋に入った。
 席について、メニュー表を開く。まずは乾杯のドリンクを2種類から選んでと言われたが、あいにくビールは苦手なのでウーロン茶の方にした。
 さてさて、ドリンク頼んだし食べ物……やきとり……ワクワクしながらメニュー表を捲っていき、最終ページまで確認して。ちょっと現実が信じられなくて、思わず叫びそうになった。
(……嘘やん!?)
 居酒屋には、何ページにも連なるレベルでやきとりが所狭しと載っているものだろう。ソフトドリンクも充実していて当たり前だし、やきとりページに豚バラがあるのはもはや様式美。そんな、小学校の頃から当たり前の常識が、存在していない世界があったのか。
 ショックを受けつつもちゃっかり頼むものは頼んで、舌鼓は打った。料理とお酒は勿論美味しかった。豚バラが無かったのには消化不良感が拭えないが、無いものは仕方ない。
 地元に帰ったら、近所の居酒屋に行ってたらふく食べよう…………そう決意して、吉華は残りの時間を過ごしたのだった。

  ***

 翌日、無事に愛する地元・福岡に帰って来た吉華は、串から外された焼き鳥を美味しく頬張る別テーブルの見知らぬ子供を微笑ましく眺めながら、思う存分居酒屋の豚バラを堪能したそうな。ちゃんちゃん。