電車を降りて、階段を駆け上がる。待ち合わせには十分間に合う時間だけれども、気が急いて急いて仕方なかった。
(二年ぶり、だ)
俺が県外の大学に進学したから、遠距離になった。メッセージアプリとかテレビ電話とかあるから大丈夫だよって強がってた君と、離れ難かったのは僕だって同じだ。
階段を登り切ると、視界いっぱいに光が広がった。眩しい外の世界に一瞬だけ怯んだけれども、この先に君がいるのだからと思って自分を奮い立たせ一歩また一歩と歩を進める。少し離れた木の傍に、待ち望んでいた君がいた。
「黒葉!」
大声で君を呼んで、近くへと駆けて行く。ふわりと黒髪をなびかせて振り向いた黒葉は、大きな瞳をきらきらと輝かせた。
「青矢くん!」
嬉しそうに呼んでくれた黒葉の表情は、ぴったりとマスクをしていたってはっきりと分かった。記憶の中の笑顔と今目の前にある隠れた笑顔が重なって、ああ、本当に本物の彼女なのだと感極まる。
滲んだ視界を見られたくなくて、乱雑に拭った後で。不思議そうな顔をしている最愛の女性を、力いっぱいに抱き締めた。