『柄じゃない』
そんな事は自分が一番良く分かっている。しかし、人間には柄じゃなくともやらねばならぬ時というものが存在する。そう、正に今の自分のように。
「あら、今日も来たのね」
「一途ねぇ」
聞こえてくる言葉が居た堪れないが、俺の事を揶揄している訳ではないので努めて意識しないようにする。一時の羞恥で再び未来が取り戻せるというのならば、安いものだ。
「今日は花を持ってきた。ライラックと言うらしい。紫色で香りもあるが、以前好きな色と言っていたし個室なのだから構わないだろう」
「今日は菓子だ。以前作ってくれたシフォンケーキ。卵を六個も使うなんて知らなかった。変にひしゃげているが、初めて作ったんだから許せよ」
じっと瞼を見つめながら、一つ一つ語り掛ける。個室ではあるのだが、やはり気になってしまいちらりと周囲を確認した。特に問題はなかったので、そっと掛布団を捲って華奢な彼女の手を握る。剣道一筋で碌に手入れなんぞしとらん男の手だから心地は良くないだろうが、許してほしい。
「……花梨」
名前を呼んで、握る力を強める。花梨がもう一度目を覚ます為ならば、花梨の未来を取り戻す為ならば、花でも菓子でもこそばゆい愛の言葉でも、何だって贈る。
「変わらず愛しているから、早く戻って来いよ」
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