昔、むかし、あるところに。一人の男がおったそうな。
武骨で不器用で口下手な男は、その地域では珍しい瞳の色も相まって周りに馴染めず、山の中に一人籠って毎日琴を作り続けていた。
そんなある日、たまたま立ち寄った湖で、二人の仙女が沐浴をしているのを垣間見てしまう。そして、その二人の妹の方に心惹かれた男は、いてもたってもいられずその次に一人でやってきた妹の衣を隠してしまった。
そんな事とは露知らず、妹の仙女は助けてくれた男に心を開き、尽くしてくれるようになる。それを嬉しいと思う気持ちと申し訳ないと思う気持ちで板挟みになった男は、毎日苦悩するようになっていった。
時は無常に流れていく。その過程で自分の窃盗行為がばれた男は、夢は終わったと嘆きながら仙女と過ごした記憶を辿って心を慰めていた。
その矢先、飼っている犬もろとも土砂崩れに巻き込まれそうになる。男の身体能力ならば切り抜けられるはずであったが、これを自身への懲罰と解釈した男は、飼い犬だけを突き飛ばして助け、自身は砂に飲み込まれた。
このまま死んでゆくのがこの身の定め。そう思い意識を手放した男だったが、まばゆいばかりの光が目の前に現れる。そして、どこからともなく愛情深い歌が聞こえてきて、思わず目を開けた。
そこにいたのは、愛する仙女。もう二度と会えないと思っていた仙女との再会を果たした男は、今度こそ誠実に仙女と向き合い、一生彼女を大事にして共に生きていこうと誓うのであった。
(二〇二二年〇月△日 某氏所蔵の昔話伝書より抜粋)